ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

二月花形歌舞伎 in博多座

博多に一泊、行ってまいりました。
ついに中村屋を追いかけて博多にまで行くようになるとは。
でも行ってよかった!
お目当ての演目意外に予想以上にハマった演目もあり、いい出会いになりました。
開店休業状態のブログも久々に書かなければと思えるほどよかった。

そんな磯異人館成分多めの感想です。



【磯異人館


期待以上で、正直期待値からのジャンプアップ率は4つの演目の中で一番でした。
 

親の罪に縛られた薩摩武士の兄弟物語。

兄はガラス職人、弟は異人館(集成館)の警護の仕事に着き、それぞれ琉球のお姫様、異人館の総裁の娘さんと良い仲。

しかし兄弟は生麦事件を起こした父親の子供ということもあり、周囲には白い目で見る輩もいます。そんな境遇を耐え忍ぶ兄、それに我慢の限界が来ている弟。

しかしある日、兄と恋仲になった琉球のお姫様にイギリス人技師との縁談が持ち上がり…

 

ガラス職人の兄・精之介を橋之助

弟の周三郎を福之助、

琉球王女・琉璃を児太郎、

集成館総裁の娘・加代を鶴松が、

そして精之介の友人の五代を松也が演じます。

 

芸や技で言ったらまだまだな四人なのかもしれません。歌舞伎である以上、そこは避けては通れません。

だけどこの『磯異人館』は若手だからこそ表現が出来る演目だと思いました。

年齢が近い若手俳優が年齢が近い薩摩武士たちを芸や型にとらわれずに全身全霊で演じることが、動乱の時代を生きる若者の魂の足掻きに通じるものがある。

舞台は明治、そして昭和に書かれた本ということもあり、心理描写などは歌舞伎よりも現代劇に近い。だからこそこちらも構えることなく、登場人物たちの心情が隔てるものなく響いてきます。

現代の若者が当時の若者をリアルに演じる。それも劇中の兄弟を演じるのは橋之助・福之助というリアル兄弟。

これが実現できていた時点でこの磯異人館はひとつ成功だったのではないでしょうか。

 

橋之助さんが素晴らしい。

とても素晴らしい。

序盤周三郎にかける声から「あぁ父親亡き後、精之介は周三郎の父親代わりでもあったんだな」と伝わってきます。でも弟の気持ちもわかるから血気盛んな弟に強く言えない……そんな距離感が絶妙に表現されていました。

琉璃さんとの純愛もまっすぐで、五代さん以上にこちらがこっぱずかしくなるほどニヤニヤできました。

橋之助さんは今回博多座は昼夜全演目に出演されていて様々な表情を見せていただきましたが、そのどれもがまじりっ気のない綺麗な色をしていて気持ちいいんです。

そんなまじりっ気なさの中でも、特に純度100%がこの磯異人館の精之介でした。

今は真っ白なキャンパスに綺麗に丁寧に、そしてすごいスピードで芸を描きこんでいるといった印象。

橋之助という名を大きくしたお父様の存在は大きすぎますけど、個人的にはお父様を超える役者になるんじゃないかとひしひし感じています。

顔の表情も声の表情も良い。

少し前に落語theMOVIEでのお芝居(声なしでしたが)を拝見しましたが、その時も表情がすごい良いなぁ、画面に映えると感じました。

今は時代劇も減っているが残念ですが、大河ドラマあたりに是非出ていただきたいです。

 

福之助さんもよかった。

まだまだ固いし、台詞回しだってこれからもっともっとよくなっていくでしょう。

でも抑圧された若い薩摩武士という境遇が、これまた若いからこそ表現できていた。

兄への反発もどこかリアル。

福之助さんの存在が今回の磯異人館の登場人物たちのリアルさにつながったと思います。

 

児太郎さん、ばりかわいい。

お姫様の凛とした雰囲気も持ちつつ、少し妹成分も見え隠れして、ばりかわいい。

自分の気持ちと立場の間で揺れる乙女心、終盤の精之介への檄、見事に強さと弱さを見せていただきました。

精之介さんとのハグで、児太郎さんが身長が高いからちょっと屈むように胸に飛び込んでいくのがツボです。ごちそうさまです。

お顔がお父様の福助に似てきたなぁと思うことはあるのですが、演じる女性から醸し出す雰囲気はお父様とは少し違う気がします。

福助さんはの演じる女は女性の「業」がにじみ出るような妖艶さに目が行きますが、児太郎さんの演じるは女は「はかなさ」が前面に出てきているよう。女房役などを演じていてもどこか儚さがあります。

どちらかというとお父様より玉三郎さんに近いかな?

個人的には若手の女形の中では一番の注目株です。

はぁ、ばりかわいい。

 

鶴松さんはかわいいねぇ。

周三郎くんを慕う加代ちゃんの必死さがよく伝わってきます。

福之助くんの相手が鶴松くんでよかった。

大学も卒業してこれからもっといろんなお役に巡り合っていく中で、どんな役者になるのかな。中村屋三男坊として期待大!

 

そんな四人を暖かく見守る松也さん=五代さん。

私は朝ドラのディーンフジオカの五代さんを見ていなかったので、五代さんといえば松也さんになりました。

四人を束ねる役割でとにかくかっこいい。

途中洋装で出てくるのですが、あのこじゃれたかっこよさは反則だと思いました。ずるい。

藩の役目がある中で親友やその恋人や弟を救うために色々奔走する姿が大人。

精之介とそこまで年齢は変わらないと思うのですが、また精之介とは違う立場があるという境遇に苦悩する一人だと思うと辛いですね。

 

私は中村屋の磯異人館を見たことがないので比較はできませんが……

恐らく今の勘九郎さん七之助さんたちが磯異人館をやっても芝居としては素敵になると思いますが、動乱の時代を生きる若者の熱量の表現という点では今回のキャスティングに軍配が上がるかと思います。

でも昔の中村屋の磯異人館も見たいなぁ。

近いうちにまたステップアップした成駒屋+鶴松での磯異人館が見たいです。

その際は是非関東でお願いします!

 

 

ハリソンの亀蔵さんがめっちゃハリソンで、歴代の亀蔵ハリソンを並べてみたい…

 

 

 

【お染の七役】

 

久松のお家は宝刀と折紙(鑑定書)を紛失したためお家断絶。

久松は町人になりそれらを探しています。

お染は久松の奉公先のお嬢さんで二人は恋仲、竹川は久松の姉、お六は竹川の元使用人、お光は久松の許婚・お染の母が貞昌・久松の父を陥れた悪者がご執心の芸者が小糸。

久之進は久松の父、それにつかえる源八・喜兵衛は久之進のところから宝刀と折り紙を盗み出した小悪党。

そんなキャラクターたちが次から次へ登場し、何気に複雑に事態が進展する今作品。

 

お染・久松・お六・竹川・お光・小糸・貞昌の七役を七之助さんが、喜兵衛・源八・久之進の三役を勘九郎さんが、早変わりで勤めるエンターテインメント性あふれる演目。

合計十役早変わりという豪華さ。

個人的に今までお染の七役はどちらかというとストーリーより早変わりや鶴屋南北の小粋を楽しみに行っていた節がありましたが、今回序幕が追加されたことにより久松やお六のバックストーリーがよくわかり最後までストレスなく人物を追いかけることが出来ました。

この冒頭の追加ってすごい発明なのでは……

冒頭に新しいシーンを追加するというのは七之助さん発案だそうですが、橋之助さんに磯異人館やったらいいとか勧めていたり、この人は演出家としての才能も持っているのかと惚れ惚れします。結果として出番が増えたことにより若手にもチャンスが回ってくる機会が増えるわけだし……

とはいっても、一番輝くのは舞台上。

七役を演じ分ける七之助さんの素晴らしいったらない。

本当に全員見事に違う人なので、中村七之助って実は一之助から七之助までいる7つ子なんじゃないかっていう説が私の中で最有力。もしくは綾波レイ的な存在がたくさんいるのか……ちょっと人知を超えた演じ分け具合です。

可愛いは正義・美しいは正義に技術までついてきたらもう無敵の玉三郎さんルートですよ。

 

今回は特に土手のお六が好きでした。

勘九郎さんの喜兵衛も素晴らしく、年齢を重ねらたお二人の喜兵衛・お六夫婦の空気感は何とも言えない色気があります。

そして最後にはお染・久松を救うかっこいいお六さん。

お染の七役の終わり方も好きで、「昼の部はこれまで」と客席に御挨拶して終わるのが「これがエンターテインメントだ!」と見せつけられているようで胸がスカッとします。

普段歌舞伎はカーテンコールもなければ余韻を残して幕というのが普通ですから、こうやってパンっと「以上です!」ってやられるのはとても気持ちいいです。

 

 

義経千本桜 渡海屋・大物浦】

 

船問屋の主人になりすまし源氏への復讐を狙っている平知盛と、幼い安徳帝と帝の乳母・典侍の局、そして平家の家臣たちの悲しい物語。

説明の必要がないほど有名すぎるお話です。

知盛が最後自ら碇の縄を身体に巻きつけて海に落ちていく場面はあまりにも有名。

 

最後の最後はツケも最小限で、本当に役者の息遣いだけが劇場に響き異様な空気になります。

それがあまりにも辛い。

その前の平家の侍女たちが次々と身投げしていく場面もあまりにも辛い。

終始松也さんがその重厚な物語を形作っていて、本当に主役のオーラがある人なんだなぁと見終わった後に思いました(見ている最中はそんなこと考えられないほどの緊迫感)。

そして松也さんも素晴らしかったのですが、典侍の局を演じられた扇雀さんがすごかったぁ……

安徳帝に仕える平家の女としての覚悟が身体全体からにじみ出ていて、扇雀さんがひとり舞台にいるだけでもうそこは紛れもなく源平の時代でした。

若手の座組みの時の先輩の存在って大きいですね。

扇雀さんのおかげで安心して知盛の最後を見届けることが出来ました。

 

 

【鰯賣戀曳網】

 

知盛の後にこの演目で、博多の夜最後がこの演目で、本当に良かった。

 

鰯賣・猿源氏が一目惚れした傾城・蛍火に会いに行くために、自分は大名だと仲間と大芝居を打って……というお話。

明るい方の三島由紀夫作品です。

 

鰯賣を見るために私、今回博多に足を運んだと言っても過言ではありません。

前回の歌舞伎座での上演が勘九郎さんと七之助さんが初めて勤められた鰯賣で、勘三郎さんの三回忌の追善公演夜の部でかかったものでした。

あの時は楽しい演目だけれども最後は勘三郎さんに思いをはせつつ、笑いと感動に包まれた一種の異様な雰囲気がありました。

それを考えると、今回がお二人にとっては初めての真価が問われる鰯賣になるんじゃないかと思います。

 

で、見た感想ですが。

うん。現状ここまでハッピーオーラ満載で鰯賣を出来るのは中村屋兄弟しか見当たらないという結論が出ました。

大満足です。

勘三郎さんと玉三郎さんから見事に受け継いで、でも先代とはまた違う新しい鰯賣夫婦が誕生しました。

勘九郎さんの人の良さが猿源氏にハマっているし、七之助さんの美しさには博多座がため息をつくほど。客席がみんな、猿源氏と同じリアクションになりますよね。

先代鰯賣は映像でしか見ていませんが、勘三郎さんのふわっとした中村屋の空気感は血としてちゃんとお二人に受け継がれているのがよくわかります。

蛍火なんて玉三郎さん成分と勘三郎さん成分が合わさっているもんだから、さらにふわっとした天然さが増しているように思えます。

結果、先代かそれ以上のバカップルになっているような(笑

個人的には新悟・児太郎・鶴松の傾城も嬉しかったなぁ。

今回私は花道横の後列席だったので、お二人が仲良く手を取り引っ込む姿を間近で拝ませていただきました。

最後の最後まで後ろ姿まで本当にバカップルで素敵でした。

 

終始可愛いと面白いと幸せが無限ループしていた一幕で博多の夜が終えられたこと感謝しかありません。

ありがとうございました。