ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

歌舞伎座十二月大歌舞伎 爪王 ~わが青春の爪王~

爪王が歌舞伎座に帰ってきました。

歌舞伎での初演、歌舞伎座さよなら公演以来です。

爪王の上演は2014年の南座以来、9年ぶりの上演。

 

私を歌舞伎にハマらせたのは中村屋の「爪王」「俊寛」「連獅子」。

今調べたら2010年2月に爪王と俊寛が、6月に連獅子が上演されたのですね。

あの頃は幕見席でひたすら見ていました。

広い舞台が中村屋の躍動感ある踊りで小さく見えました。

 

2014年の南座では、爪王見たさに初めて遠征というものをしました。

上の方の席を取って、今はどうか知りませんが、びっくりするほど座席が狭かった思い出があります。

 

今思い返すと当時は本当に黒歴史みたいな時期で、あの頃なにをしていたとかほとんど覚えていないのですが、影響を受けた舞台はよく覚えています。

あの頃の私へ、今でもあなたは歌舞伎が大好きですよ。

なんと2023年は、昔は座れなかった高嶺の花の花道横で爪王を見れていますよ。びっくりですね。

習い事も何も長続きしないあなただけど、13年経っても歌舞伎が大好きで、中村屋の爪王を見て感動することが出来ています。

あの頃の私が爪王に心動いたおかげで、中村屋だけじゃない色んなお家の歌舞伎を楽しめています。

勘九郎さん、七之助さん、あのとき爪王をやってくれてありがとうございました。

そして2023年にまた爪王をやってくれてありがとうございます。

 

9年ぶりの爪王は最強で最高でした。

昔はもっと若さ前回の舞踊劇だったような気がするのですが、

激しさは変わらずに、ただ成熟した芸を感じたのは気のせいでしょうか。

私が歌舞伎を見慣れただけかもしれないけど、爪王から貫禄と成熟を感じたのは初めてな気がします。

七之助さんのの手先、足先の機敏さ、まばたきの少なさがまさに人外で、鷹です。

羽ばたきの角度も、針金が伸びているわけでもないのに、ジュディオングばりの美しい曲線です。

一度は折られた翼で命からがら戻ってくる吹雪ちゃん。

鷹匠が「負けたままじゃいられねぇよな、やるっきゃねえよな(意訳)」の問いに従順な吹雪ちゃん。

最後は私は最強な吹雪ちゃん。

キラキラな衣装着て、キラキラが降り注ぐ中、自尊心MAXで前にせり出してくる七之助さんは説得力しかないです。

勘九郎さんは踊りもさることながら、そこにつく表情がたまらんです。

「こいつまた来よったわ」と笑う表情や、予想外に強い吹雪ちゃんに驚く表情。

表情も踊りの大事な表現とは言いますが、勘九郎さんは格別です。

そしてみんな大好きポニーテール勘九郎さんなのですが、毛先の操り方が本当に上手い。髪の毛一本一本が生きてます。

歌舞伎にチッケムがあったら、勘九郎さんのチッケムは絶対バズると思うので、松竹は爪王のチッケムをインスタとかyoutubeに上げた方がいいです。

 

あと踊りが上手い役者さんは沢山いますけど、私が中村屋の踊りで特に凄いと思うのが重力の表現。

よく漫画で、その一点にだけ重力がかかり、地面がへこみキャラクターが押しつぶされそうになるみたいな戦闘シーンがありますけど、それを生身で表現できるのが勘九郎さんと七之助さんだと思います。

吹雪ちゃんが狐さんを地面に打ち付けるときの描写は漫画の効果線が見えます。

地で「漫画みたいな表現」が出来ちゃう中村屋、ほんと最強です。

この勘九郎さんと七之助さんの強みを最大限に生かせる舞踊劇が中村屋に在ることが奇跡だし、本当にこの二人に当て書きされたのかと思うぐらいです。

奇跡でも何でもなく、この芸が波野のDNAに刻まれているのであれば、血というものは本当に深いと思う。

 

しかし立ち回りしているのは勘九郎さんと七之助さんだけなんだけど、見どころ多すぎて目が足りない。

もっともっといろんな角度から何回も見て味わい尽くしたいです。

超歌舞伎の盛り上がりもすごかったけど、個人的には爪王の十二月になります。