ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

八月納涼歌舞伎 2017

2017年8月11日に一部、13日に二部と三部を観劇。
11日に至っては最前列の一番端で観劇という、歌舞伎座人生史上一番舞台に近いお席だった。

《第一部》

一、刺青奇偶

中車さんと七之助さんの夫婦がとてもいい。
最初は人生投げ出そうとしていた七之助さん演じるお仲の「生きたい」「死にたくない」と言葉、気持ちが泣ける。
成田屋さんのご夫婦を思い出すような素敵な夫婦でした。
見どころは、幕が開いて絶望の淵にいるお仲の佇まい。足の表現。
中車さん演じる半太郎がご近所さんから奥さんはもう永くないと聞かされた後の表情、それをお仲には悟られまいとする演技。
泣ける。
ちなみにサイコロの刺青は三面です。

二、上 玉兎 下 団子売

玉兎の勘太郎さんは堂々とした踊りでした。
顔はお母様にそっくり。でもキリッとしてるかな。
客席にぺこりと頭を下げるのが可愛い。
個人的には後見がいてうさんで「あぁ、いてうさんもこうやって中村屋の生字引になっていくのね。末は小三山か」と嬉しくなりました。
兎がついたお餅を団子売が売るのかな?
続いての団子売では花道でお客様にご挨拶する勘九郎さんと、私、目が合いました。
ただのファンの戯言と言われてもしょうがない…でも合ったんだもの!・゚・(ノД`;)・゚・
不覚だと思ったのは一瞬銀魂の局長が頭によぎってしまったこと。
団子売の営業妨害だ!(; ̄Д ̄)


《第二部》

一、修禅寺物語

八月歌舞伎で一二を争うぐらい好きな演目。
面彫師の夜叉王の二人の娘を猿之助さんと新悟丈が演じます。
二人の性格の対比が見た目からも伝わってくるという絶妙な配役。
そこに巳之助さん演じる妹娘のお婿さんが加わると、これまた清涼感のある若夫婦。
そして何と言っても夜叉王を演じられる彌十郎さんが素晴らしい。
優しい表情、お声、包み込むような大きな身体の彌十郎さんが、最後にとてつもない彫師の執念・執着を見せるのですが、前半の大らかに見えた夜叉王とのギャップが恐ろしくなります。
人間の秘めたる狂気みたいな…
間違いなく彌十郎さんの当たり役だと思います。

二、歌舞伎座捕物帖

キター。弥次喜多再び!!
今回の弥次喜多は舞台装置の謎までわかる、自由研究が終わらない小学生の味方のようです。
前回が猿之助さんと染五郎さん、そして金太郎丈と團子丈が主役だったのに対し、今回は若手が主役の舞台でした。
MVPを選ぶなら、私は児太郎丈に一票。
可愛い姫だけじゃない歌舞伎の女形の魅力をあの若さにして体現できる児太郎丈は、間違いなく将来福助の名に恥じない襲名を迎えることになると確信しました。
玉三郎さんが雪の中に一滴落ちた紅のような姫の第一人者とするなら、お父様の福助さんは真っ白なキャンバスの上にチューブから絞り出した絵具を直に塗っていくような人間味のある女の第一人者だったと思います。
児太郎丈の演じるお父様譲りの人間臭い色気のある女にゾクゾクします。
そして児太郎さんと三津五郎さんのご子息・巳之助さんが大活躍する姿に「八月納涼歌舞伎の継承」を感じました。
ありがとう猿之助さん。


《第三部》

野田版 桜の森の満開の下

人間がギリギリ脳にインプットできる(でも深く考えさせる時間は持たせない)スピードとエネルギーで駆け抜けていく爽快感に、「あぁ野田地図だ」と酔わされる。
満開の桜の傍にたたずむ鬼たちの美しさにも酔わされる。
勘九郎さんの純粋さが耳男にぴったり。
七之助さんの美しさが夜長姫の不気味さをさらに際立たせる。
ちなみにこの作品を見ながら筋書きに目を落とし役者さんの名前をチェックするなんて所業は難易度が高すぎるので、開演前に役名と演者を頭に叩き込むか、幕間に答え合わせをするか、どちらかになるかと思います。
個人的には後者がおすすめ。
贔屓とか歌舞伎役者とか筋書きとか全てまっさらで挑んだ後に、「この役ってあの方だったのか!」と驚くのが気持ちいい。
私はあの役が巳之助丈だと気づかずに一幕を見まして度肝を抜かれました。
巳之助丈の芝居の勘の良さは羨ましい限りです。
そしてエナコというお役があるのですが私は一幕の最中ずっと「野田さん。いくら野田版とはいえ、女優さんを連れてくるのは違う気がするよ」と思っていました。
答え合わせしたら芝のぶさんでした。
犬山イヌコさん系の女優さんかとずっと思ってた。
幕が閉じた後、多分、皆さん、「いやぁ、まいったー。まいったなー」と笑顔で頭を抱えると思います。
笑顔で。
そんな作品でした。



望まぬ形でのバトンタッチではなく、
前向きな若手へのバトンタッチ、新作への挑戦、
明るい八月納涼歌舞伎でした。





~どうでもいいメモ~
一列目という貴重な経験。
黒衣さんが定式幕を開けるときの緊張感がめちゃくちゃ伝わってきました。