ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

2016渋谷・コクーン歌舞伎 四谷怪談

思えば、それまで細々と接してきた歌舞伎を、「おいら歌舞伎好きだぁ!」と確信しその気持ちをオープンにしたのが前回のコクーン歌舞伎三人吉三』でした。
そして今回の二年ぶりになるコクーン歌舞伎は『四谷怪談』です。
あの有名なお岩様のお話です。

見終わった感想を書くのがとても難しい作品ですね。

率直に言うと、後味がすごい悪い作品。
今まで見てきた作品の中でTOP3に入るぐらい後味悪い。
そりゃ『四谷怪談』だから後味が良いわけないとは思ってたけど、予想以上に後味悪い。

歌舞伎って殺したり、殺されたり、血まみれだったり…まあ沢山そういうお話あるじゃないですか。
でもそこには義とか愛とかなにかしら信念みたいなものがあるわけで。
時には『女殺油地獄』みたいな人間の弱さからの殺人もあるけど、それはそれで人間臭さもあるので衝動的な心中を察することも出来る。
むしろ人間の弱さというしっかりした芯がそこにはある。

だけど『四谷怪談』の殺人には義も愛もなけりゃ、人間の弱さ故の殺人ではない。
色んな縁とか欲とかちっちゃなものが積もり積もって、周りに回って、流されて、この結果に。
だから誰も救われないし、主人公に感情移入して「この後どうすんだろ」という心配も出来ない。
最後の演出と同じで、フェードアウトしていく舞台じゃなく、カットアウトで終わった舞台って感じ。
だから余韻に浸るというより、後味の悪さだけが纏わりついてくるんです。
自分は今回の串田さん演出の『四谷怪談』しか見ていないから、もしかしたら古典演出とか、鶴屋南北の原作とか読んだら、もっと登場人物たちの心情とかわかるかもしれません。
でも、それでもこの後味の悪さは変わらないだろうなとは思いますけどね。


今回は、お岩様とか夫の伊右兵衛が主人公然として描かれておらず、あくまで彼らも群像劇の中の一登場人物といった風に描かれていました。
現に私は「この舞台の見せ場」を聞かれても「お岩様が鏡見る場面…かな~?」と答えるでしょう。
それぐらい、お岩様のシーンをピックアップして作っているわけではないんです。
それがなんともまた、あっさりというか、それぞれ壮絶な人生送ってるのに世界の中では一つのピースでしかないような感じで浮かばれない。
だからそれぞれのキャラクターについての感想も書けない。
「クズ」「かわいそう」「だいたいお前のせい」とか表面的なことなら言えるけど、ちっちゃな一つのピース拾い上げて深くは語れません。


あまりに後味の悪いので、終演後すぐに渋谷から銀座に直行して、義経千本桜の源九郎狐の笑顔を見たくなりました。





~どうでもいい怖い話~
見終わった後、唇の下に違和感を感じて鏡を見たら、大きなデキモノが出来て若干膿んでいました。
お岩様のシーンにのめりこみすぎたのでしょうか?
全く前触れなかったのに。
怖い。