ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

十月大歌舞伎 マハーバーラタ戦記

歌舞伎だから、インドの古典を日本の表現に落とし込むことに成功したのかな。
マハーバーラタ戦記が凄すぎて、これが一か月しか見れないなんてなんてもったいない。
これは全国各地で出張公演やるべきです。

【音楽がやばい】

普段歌舞伎座で聞きなれている楽器とは違う優しい音色が、一気に異国へと持って行ってくれます。
ゆったりした音楽に合わせてゆったり幕が開き現れるのが一幕目の神々の世界で、その空気は舞台とはいえ神社仏閣に近いものがあります。
役者の呼吸と合っているのが生演奏ならではで役者の声を邪魔せず聞こえやすい。
メロディーも耳馴染みがよくずっと聞いていられる曲ばかりで、松竹様にはサントラを発売していただきたい。
ちなみに演奏隊が上手(舞台の右手)で演奏しているのですが、演奏が終わるとスッとしゃがんで姿を消すのが可愛い。


【ストーリーがやばい】

ストーリーは超簡潔にまとめると、太陽神の子供の迦楼奈(カルナ)が世界を救うために、帝釈天の子・阿龍樹雷(アルジュラ)王子&その4人の兄弟たちと対立する物語。
こう書くとまるでアルジュラが悪で敵役のようなのですが、この舞台での敵役はカルナと手を組む、アルジュラ達と対立している鶴妖朶(ツルヨウダ)王女。
で、またこう書くとツルヨウダが悪い奴のように見えますが、ツルヨウダもツルヨウダで寂しい人なのです。
例えるならカルナとアルジュラはガンダムでいうところのアムロとシャアで、決してどちらが悪ということもなく、あるのは平和への手段の違いだけ。となるとツルヨウダはハマーン様…?
終始カルナが主人公然として出てくるのでついアルジュラ達を厳しい目で見てしまうのですが、途中から五王子の心の内がわかり人間性がわかってくると、最後の方にはアルジュラ推し増し必至です。




……という記事を一回目見に行った直後に書いたのですが、自分が言いたいことが全くまとまっておらず放置しておりました。
そして公演最後の日曜日にマハーバーラタ戦記をもう一度見てまいりましたので、この記事の続きを書こうとしているわけです。
ということで、以下は二回目の観劇直後に書いております。






七之助さんがやばい】

鶴妖朶は迦楼奈を唯一の友と信じて13年間待つのですよ。
そして13年後、迦楼奈は鶴妖朶の元にはせ参じる…というのが大詰の一場。
このシーンからの鶴妖朶の最期のシーンまでの加速度が素晴らしい。
一幕、二幕と寂しい王女の一面は見えながらも、どちらかというと五王子の敵対勢力としての描写が強かった鶴妖朶。
このシーンでは王女として、女性として、人間として…彼女の運命の悲しさがギュッと凝縮されています。
運命の歯車に乗って最期を駆け抜けた彼女は見事に鶴妖朶の役目を果たしました。

鶴妖朶は七之助さんだから描き切れたのかもと思えるほどのエネルギーでした。

自分がどんな言葉を並べてもその魅力が伝わらないのが悔しい。

でも、きっと、勘三郎さんが生きてたらね。

七之助さんの演じる鶴妖朶を見て、すごい悔しがると思う。


(つづく)