ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

十月大歌舞伎 伊勢音頭恋寝刃

昼の部三本目は『伊勢音頭恋寝刃』

まずあらすじから…
福岡貢は昔の主人宅から紛失した刀と折紙(鑑定書)を探しています。
ある日、刀を発見。
すぐに上司にその刀を渡そうと伊勢の廓にて上司が来るのを待機。
その廓には恋仲のお紺とか、昔の家来筋で今は料理人の喜助とかいます。
で、色々あって「本物の刀と取り違えたー!」とか一悶着あり、最初は手違いから貢はどんどん人を殺していきます。
最後は、持っているのはちゃんと本物の刀で、お紺が折紙も手に入れてくれたおかげで、二つがようやく揃いましたとさでおしまい。

主なキャストは、
福岡貢…勘九郎
お紺…七之助
喜助…仁左衛門
仲居万野…玉三郎


仁左衛門さん演じる喜助は、まぁ普通の気のいい料理人に見えて、陰では貢のために一計を謀る切れ者です。
仁左衛門さん自身は貢を当たり役として過去何回か演じられていたらしいですが、喜助も中々かっこいい!
捨て台詞のように「ざまあみやがれ」みたいに呟くところとか、粋でかっこいいです。
仁左様にしか出せない喜助のカッコよさです。

玉三郎さんの万野はとにかく面白い。
意地悪い万野ですが玉三郎さんの万野には気品があり、意地汚いというより意地が悪いという感じ。
そして万野がしゃべるたびに客席から笑い声が起きるぐらい、面白いキャラクターです。
決して突拍子もないキャラクターというわけではなく、会話の妙で笑いが起きるんです。
キャラじゃなく会話で笑いが起こるって難しいんですよね。


勘九郎さん演じる貢についてはちょっと語りたい…

さてさて、この貢。

個人的に、今まで見てきた歌舞伎の演目の中でもかなり腑に落ちない主人公でして。
見ていて感情の動きだったり人格が読めないのです。
主人公の福岡貢は、歌舞伎用語でいう「ぴんとこな」な役柄とのこと。

ぴんとこな
歌舞伎の役柄の一。二枚目の和事役のうち、多少きりりとした性格をもつもの。「伊勢音頭恋寝刃」の福岡貢など。(和事=柔弱な色男の恋愛描写を中心とした演技)

私にとっては貢は「ぴんとこな」じゃなく「ぴんとこない」でした。
お話の筋を追っていくと、まぁ行動にも合点がいくっちゃ合点がいくんですが、貢の心を覗こうと思うと全然わからないのです。
途中まであまりに私の頭がオーバーヒートして、、貢に人間味を感じられないほどでした。
役者がどうこうじゃなく、ぴんとこながこんなに難しい役だとは初めて知りました。

でもね。
最後のほうに、貢が何人も人を切ったあとに、庭の手水前で息も絶え絶えに刀から手を放そうとするんですよ。
だけど手がこわばってしまい手が刀から離れない。
もう一方の手も使って、なんとか刀を手放す。
っていうシーンを見て、ここでやっと貢が少し理解できました。
上手く言えないけど、温和な人間の狂気の沙汰だったのかなと。
人間味をほんの少し垣間見えました。


勘九郎さんはよくこんな難しい役にチャンレンジされましたね。
祖父・父の当たり役であるこの役を、これからも末永く演じていっていただきたいです。




~どうでもいいメモ~

橋之助さんのお鹿、おもしろいわぁ。