ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

歌舞伎NEXT 阿弖流為

新橋演舞場で公演中のアテルイを見てきた。
昨日幕が開け2日目、3公演目。

歌舞伎NEXTと銘打った今回のプロジェクトは、劇団☆新感線とのタッグによって生まれました。
元は新感線で上演されたものを、今回歌舞伎にしたのです。
もっと元を辿れば、染五郎さん発案で新感線で舞台化されたので今回は逆輸入ってことになるのかな?

主役のアテルイはもちろん市川染五郎さんです。


【知られざる歴史の物語】
今作のもう一人の主役・坂上田村麻呂という名前は歴史の勉強をしたことがあるなら一度は耳にしたことがあるはず。
征夷大将軍って言葉も一緒に。
でも具体的に何をした人間かはあまり知らない。
自分の認識としては、なんか日本地図の上の方を静定したのよね…ぐらい。
もっと言うと、正直、百人一首阿倍仲麻呂とごっちゃになってました、ごめんなさい。
そんな歴史の教科書にちょろっと載ってる出来事を膨らませた物語がアテルイです。
蝦夷征伐の任を仰せつかった田村麻呂と蝦夷を率いるアテルイの友情物語。
史実を元にしているだけに結末はわかっている。
だから幕が開いてからそこに向かっていく疾走感は爽やかで儚くも美しい。

染五郎さんのアテルイ
前回の新感線の舞台でも主役を務めた染五郎さん。
しかし自分は新感線verを見ていないので、まっ皿な気持ちでアテルイとご対面。
正直最初は設定の都合もあり個性が分かりにくかった。
田村麻呂と比較してようやく輪郭がくっきりした印象。
田村麻呂と出会い、蝦夷に戻りアテルイという人間がようやくわかり始めてから、この作品の主人公は一対の存在なのだろうと思った。
どちらも義を持ち、それぞれの立場で刃を交えるからこそ、二人の存在が際立っていく。
こう考えると、二人が出会ったことは運命と思えた。
またキャスティングがいい。
勘九郎さんの田村麻呂・七之助さんのヒロイン立烏帽子が揃ったところに染五郎さんのアテルイが登場したときのバランスの良さ。
年下二人にしたことでアテルイの主人公感がぐっと増して引き締まります。
そして染五郎さんの演技を見てると「こういうのが作りたかったのね!」とよくわかります。

【すごいぞ!勘九郎さん】
もう一人の主役・坂上田村麻呂を演じたのは中村勘九郎さん。
脚本の中島さんが歌舞伎verにするにあたり、勘九郎さんが演じるということで田村麻呂の年齢を下げたと書いてありましたがそれがドンピシャです。
今までの作品を見ていても、「若さゆえの無鉄砲さがあり、ちょっと不器用で、でもそこから成長していく」っていうキャラクターは勘九郎さんの十八番だと思うんです。
本当に自然にそこに存在しているんですよ。
若さからの覚悟が、等身大でとっても爽やかです。
加えて新感線の殺陣で発揮される運動能力。
圧巻でございます。
ちょっとひとり躍動感が段違いでございます。
そりゃ外部の舞台ですが、真田十勇士とかオファー来ますわ…って納得。
阿弖流為が再演・再再演とあっても、特にこの役は勘九郎さんのイメージがついてしまうでしょうね。
ちなみにチラシでは結構睨みきかせて気難しそうな豪傑な雰囲気出してますが、超若々しい爽やかなお役です。
最初そのイメージで待ってたら、かなりギャップに驚きます。

【女役】
今作、歌舞伎なのでもちろん女優さんは出ていません。
女性キャラクターも男性です。
で、ヒロインの立烏帽子と鈴鹿一人二役中村七之助さんが演じます。
新感線では女優さんが別々に立烏帽子と鈴鹿を演じたらしいのですが、逆にどうやって演じたのが気になります…
ネタバレになってしまうので詳しく言えませんが、それだけ一人二役である必要がある役です。
おそらくチラシのビジュアルに一番近いのが七之助さんの立烏帽子です。
この世のものとは思えない美しさ。
可愛いんですが、ちょっとヒロインらしくないというか、ヒロインとしては気が強いなぁ…と感じました、最初は。
これもお話が進んでいくとこういう理由があってなのねと納得できましたが。
現代劇に近づけた時の女役というポジションの難しさを感じたのが、蝦夷方の巫女・阿毛斗を演じたのが坂東新悟さん。
このキャラクターのビジュアルは一見男っぽくも見えてしまうんですよね。
イメージとしては、もののけ姫の冒頭のひい様を若返らせた感じです。
言葉遣いも女役独特なものではなく、いたってナチュラルなので女性っぽさをどこで見せるか。
新悟さん自身も細身ではありますが背が高いので、出てきたときには一瞬性別不明でした…
でもキャラクターを考えると不自然ではないです。

【脇を固める役者陣】
染五郎さん・勘九郎さん・七之助さんの周りを固める役者陣が素晴らしかった。
個人的に、どんなお役でも片岡亀蔵さんの存在には毎回安心させられます。
どんな役が来ても良い意味で気を抜いて見ることができるんです。
特に今回の亀蔵さんのお役は、一服の清涼剤というか、笑い部分を担当する大事なお役。
むちゃくちゃ笑わせていただきました。
そして市村萬次郎さんや坂東彌十郎さんの重厚感あふれるお役も素晴らしい。
萬次郎さんなんか、女役とかいう先入観も吹っ飛ぶ完全なる大御所の女優さんでした。
ネタバレになってしまうから言えないことが多すぎて…
とにかくドラゴンボールフリーザ並の戦闘力の強さを感じます。

【歌舞伎の進化か、歌舞伎への回帰か】
この舞台、歌舞伎として見ても良し、新感線の外部公演として見ても良し。
歌舞伎と現代劇の垣根が低い、どちらともとれる作品です。
歌舞伎を見ていて多少なりとも感じる「古典の授業頑張っとけばよかったー」といったことがありません。
歌舞伎成分の濃さでいうと、普通の歌舞伎>>>コクーン歌舞伎>>>>歌舞伎NEXTぐらいでしょうか。
なのでもう本当に何の準備もなく、予習も一切なしで楽しめる作品です。
これが歌舞伎の新しい姿と言えるかもしれませんが、一方で気楽に楽しめた庶民の娯楽であった歌舞伎に戻っただけかもという感じもしますよね。
最後のお客さん参加型の演出があったりと、歌舞伎の新しい形が見れておもしろかったですよ。

【脚本の妙】
なにはともあれ、とにかく本が面白い。
勧善懲悪ではなく、揺れ動きつつそれぞれの義を貫いた故の物語。
要はガンダム理論といいますか、「主人公二人の義があり、そこに絶対的な悪の考えを持つ奴が絡む。悪はとりあえず倒すが、最後は二人のぶつかり合い」というやつです。
まぁ最後はそんな簡単には締まらないんですけどね…
でも、これ人気が出れば、数年後には通しじゃなくて一幕でも上演可能なんじゃないかって思います。
そして見終わって一番最初に思ったのが、もう一度見たい!
「まさかこいつが!」展開の連続なので、それを踏まえてもう一度見直したいです。
そしてこの作品、回を追うごとに絶対ものすごいスピードでもっともっと良くなっていくような気がするんです。
私が見た公演も十分素晴らしかったんですよ。
でも一公演の中でも、もっとすごい未来が見えるんです。
しかしまた見に行くなら、個人的に気を付けておきたい点が…
花道が見える席でということ!
今回、花道を多用します。
花道の反対側に仮花道を作り、二本の花道を効果的に使っています。
超使ってます。
もしこれからチケットとろうかなと考えている方、大阪公演行くよという方、花道が見える席をおすすめします。
(ちなみに自分、仮花道しか見えなくてちょっと泣いた。一応死角用にビデオモニターあるんだけどさ)





以下、ちょっと感想の様子がおかしくなります↓



【デジャヴ】
一幕を見終わった後、「なんだかこのアテルイと田村麻呂のこの雰囲気、見覚えが…う~ん」とむず痒くなりました。
記憶をたどって思い出しました。
「そうだ!陰陽師だ!」
もう二年ぐらい前になるのかな、花形が勢ぞろいしすぎて歌舞伎座がざわざわした陰陽師です。
染五郎さんが清明で、勘九郎さんが博雅だったあの陰陽師です。
「なんだこの萌える関係性は!」と勝手にざわざわしたあの陰陽師です。
結論として、あの陰陽師でざわざわした覚えがある方は、今作は絶対見に行くべきです!
間違いない。





しかしアテルイ
モテモテである。







~どうでもいいメモ~
中島かずきさんの本って、本当に歌舞伎にぴったりですよね。
グレンラガンとか歌舞伎化できそう。