八月納涼歌舞伎、締めくくりますは三遊亭円朝さんの落語でおなじみ『怪談乳房榎』です。
まぁすごい。
とってもすごい。
すごすぎます。
こんなに終始お客さんの驚きの声と拍手が続く舞台は初めて見ました。
超超超簡単なあらすじ…
悪い奴・磯貝浪江は、絵師の菱川重信に弟子入り。
重信の下男・正助をゆすり、重信を殺します。
そして重信の息子の真与太郎も滝壺に落として殺そうと計画。
その役目を正助にやらせます。
正助が滝壺に赤ん坊を落とすと、幽霊の重信が出てきます。
ついでに浪江に正助殺しを依頼された、浪江の昔の悪仲間・うわばみ三次も現れて…
四幕まとめるとこんな話です。
とってもわかりやすいあらすじ。
私の文才のなさのせいで、じゃあ何が面白いんだと思われてしまうかもしれませんが…
かなり面白いし、すごいんですよ!
結末もすっきりします。
では、先ほどから「すごい」としか言ってませんが、何がすごいのか。
まず重信・正助・三次の三役を中村勘九郎丈が早替わりで演じるのです!(最後に円朝さんも演じるので計四役ですね
正助が駆けていったと思ったら三次が出てくる。
重信が出かけたら正助が出てくる。
三次が階段を下って行ったら、擦れ違いで正助が上がってくる。
etc…
数えきれないほどの早替わりの数々。
それも舞台後方に下がったと思ったら、花道から違う役で出てきたりするんですよ!
時間も30秒もかからない、15秒ぐらいで!
特に有名なシーンは花道で、勘九郎さん演じる正助が三次とすれ違うと、三次が勘九郎さんになっているという…
もはや衣装チェンジでなく、イリュージョンです。
おそらく世界で一番、早替わりの技術を持っているのは歌舞伎です。
昔、勘三郎さんの乳房榎の舞台裏をテレビで少し見たことがあります。
舞台裏めちゃくちゃ走って、走りながら脱ぎ捨て鬘も替えみたいな、戦場のような様子が映っていました。
それが頭にあるにもかかわらず、目の前で起きていることはイリュージョンにしか見えません。
そして、もうひとつすごいのがセット。
大詰(最後のシーン)の滝のセットです。
かなりの水量の本物の水を流して、そこでの立ち回り。
滝でめちゃくちゃ暴れます。
最前列のお客さんにはビニールの水除けが配られる徹底ぶり。
大詰までの幕間には役者さんによる水除けの実践講座などもあり、大変に盛り上がりました。
もちろん大詰でも、早替わりし放題です。
濡れながらどんどんどんどん替わります。
私は大詰を見ながら思わず呟きました。
「意味が分からない」
それだけすごい早替わりです。
今回の乳房榎はニューヨーク凱旋公演。
というわけで、ニューヨークで上演されたものをまた少し日本向けに直してという部分もあります。
そこで面白かったのが、英語での幕間劇。
舞台装置の転換の間、役者さんたちが時間をつないでくれるのですが、そこでの掛け合いが自由で、英語で今までのあらすじを説明したりします。
こういう幕間を飽きさせない工夫もあり、テンポよく物語が進みます。
「歌舞伎ってこうでしょ?」という固定概念を一段も二段も飛び越えて、広げてくれる作品です。
そしてこれは特に「見なきゃ損する」作品です。
「是非、見てください」としか言えません。
説明不要。
問答無用。
心配ご無用。
見て損はありません。
是非、見てください!
そうそう。
周りに外国人のお友達がいる方は、できたら一緒に見に行かれると、大変喜ぶと思います。
クレイジーでファンタジーです!
どーでもいい(今回はよくない)メモ↓
小三山さんが出演されました。
声も通るし、ちゃんと歩けてるし、まだまだお元気です。
第二部では七緒八くん、第三部には小山三さんが出演され、一緒の演目ではないものの中村屋の古参と新参が同公演に舞台に立つというのは心が震えますね。