ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

明治座四月花形歌舞伎 葛の葉/末広がり/女殺油地獄

昼の部行ってきました。
人形町駅からの通りが楽しいです。

芦屋道満大内鑑 葛の葉】

安倍清明のママンは狐だっていう伝説は有名な話ですが、それを基にした作品です。
安倍保名に助けられた狐は、保名が好きな葛の葉姫に化けて、彼の女房になります。
で、後に清明になる童子が生まれて幸せに暮らしていましたが、本物の葛の葉姫がやってきて、バレて、森へ帰っていきますって話です。

女房葛の葉(狐)と葛の葉姫の二役を、七之助さんが勤めます。

背景も、台詞回しも、浄瑠璃もわかりやすい。
そして見どころも多いので、飽きることなく楽しめます。
ついでに今回の配役、全員(童子役の子役も含め)声が良いので尚嬉しい。
芝居が堅実な役者が並んだ印象です。

まず葛の葉と葛の葉姫の早替わりで客席が湧きます。
七之助さんの女房と姫のお芝居、両方素敵です。
昔はやっぱりお姫様の七之助さんが好きでしたが、女房の七之助さんもどんどん好きになります…(´▽`)
葛の葉が狐の妖術を使って、遠くの木戸を開け閉めしたり、ついたてを動かしたりします。
早替わりのトリックはなんとなくわかるのですが、妖術シーンは全くトリックが分かりません。
誰か教えてください。

この作品の一番の見どころは、葛の葉の別れの歌を障子に認めるシーンですね!
最初は普通に右手で書いているのですが、次に左手で鏡文字、しまいには口で筆を加えて歌を認めます。
歌舞伎役者さんの素養のすごさ、器用さに、口ポカーンで拍手喝采です。
しかしすごいのは、そういうことをさらりとこなしながら、我が子と別れる母親の悲しみを痛いほど表現しているところ!(´;ω;`)
葛の葉なんていい人(いい狐?)なの!
っていうか、保名もいい人!
この家族、皆心がきれいです!
最後、「周りがどう言おうと、奥さんが狐でも俺は恥ずかしくないぞ!」と我が子を抱えながら宣言する保名最高やん!(´;ω;`)
良い夫婦の日に表彰しましょう。


【末広がり】

狂言の『末広』を基にした作品。
娘の結婚式やるから末広がり(扇)を買ってきてと旦那様に言われた太郎冠者。
末広がりを知らず、商人に「これが末広がりだよ!」と傘を売りつけられて…という舞踊。

勘九郎さんの太郎冠者が最高です。
分限者(金持ちの旦那様)の亀蔵さんの堅実さと相まって、面白い。
やはり勘九郎さんの身体能力はすごいなぁと一つ一つの動きからも見て取れます。
コミカルな動きが天下一品です。
娘役の鶴松丈も可愛いです。
昔でいう美人って、きっと七之助さんみたいなシュッとした方より、鶴松丈や米吉丈みたいなほんわかした方のことを言うんだろうな……
っていうか、勘九郎さん・亀蔵さん・鶴松丈の並びがすんげぇ好きです(*゚▽゚*)

商人役には国生丈です。
橋之助さんと三田寛子さんの長男です。
最近お母さんがテレビによく出てるからか、見た目的にもお母さんに近いからか、喋ったらぽわわーんとしてそうっていう勝手なイメージがあってですね…
国生丈、結構渋めの声なのね、と若干びっくりした。

毬と傘を使った踊りは楽しいし、めでたいね!


女殺油地獄

昼の部最後はまぁすごい作品でした。
見終わった後、しばらく深いため息が続きました。

チラシ裏のあらすじをそのまま書くと、
「放蕩三昧で親にも勘当された河内屋与兵衛は、金の工面に困り、同業の油屋の女房お吉を訪れますが…。実際に起きた事件を題材にした近松門左衛門の名作」
だそうです。
与兵衛を菊之助さん、お吉を七之助さんが演じます。

題名の通り、与兵衛がお吉を殺すお話です。

…って言っちゃうとそれまでですが、とにかく与兵衛の人物描写、殺しの描き方がセンセーショナルです。

まず恐ろしいのが、与兵衛が「こういう人いるよね」と、現代目線で見ても珍しくないタイプの人なんですよね。
喧嘩したり金借りたりと、放蕩三昧の与兵衛ですが、内面では親の愛を求め、とても気弱な人間。
最近のニュースとかワイドショーでも、よくこういう性格の方見るじゃないですか!
もう、近松門左衛門の作品が今の世の中に近いのか、人間の内面が当時から変わってないのか、どっちなのって感じです!
役者は皆、髪結って着物姿なのに、怖いぐらいに現代的でリアル。

殺しの場面も、これでもかってくらいにじっくりリアルに描いています。
お吉のお店(油屋)で、行燈の火も消えて、暗闇の中で追い回される恐怖。
奥の座敷には二人の子供が就寝中。
商売道具の油に足を滑らせながらもがく加害者と被害者が恐ろしい。
よくドラマで「刺されてから息絶えるまでよくそんなに喋ってるなぁ!」っていうツッコミどころのある作品とかありますけど、今作はお吉の死に絶え方がリアルすぎて…
「死にとぉない…死にとぉない…」と油にまみれながら這いずり回る姿を見ていると、なんか現代のそういう事件の被害者の方に重ね合わせてしまいます。
個人的には人を殺す作品でパッと思い浮かんだのが『伊勢音頭恋寝刃』だったのですが、そちらはまだ様式美というか型が見える作品でしたが、こちらはガチです。

そのシーンの加害者・与兵衛の表情も、本当に内面の弱さ故に衝動に乗っかってしまうのがなんとも…
痛々しいとか、怖いとか、可哀そうとか、そのどんな言葉でも形容できない形相に代わります。
でも、殺した直後にはすぐに弱気な部分が表に出てきて、そこで「あぁ、これは鬼やバケモノの仕業じゃない。人間の業の仕業なんだ」と思い知らされます。
本当にこのお役は、この世代では、菊之助さんにしかこなせない気がします。
まだ菊之助さん自身もお若いので、その若さも相乗効果で『一人の若者の衝動』という部分が際立ちます。

劇場からの帰り道、被害者家族・加害者家族にも思いを馳せたら、とてつもなくやるせなくなりました。
息子を思いやり勘当を言い渡しながらも息子を支えようとする家族。
子供二人にも恵まれ商売も順調な幸せな家族。
お吉の変わり果てた姿を発見した夫は……想像したくありません。
この作品が一時期上演されなかったのも納得。

書いても書いてもキリがないくらい感想が出てきます……
とにかく今の世の中に見てほしい。
見てこのご時世がどうこう変わることはないけど、見てほしい。
で、見るだけじゃなく、登場人物の心情なんかに思いを巡らせながら見てほしいと思います。

最後に、本当にこの女殺油地獄は少しでも良いお席で見てください。
もしくはオペラグラスをお忘れなく。





~どうでもいいメモ~
女殺油地獄で油がぶちまけられるシーンは水なのかな?
でもちょっとぬめりがあるように見えたし……
もしやローション!?Σ(゚д゚;)