ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

赤坂大歌舞伎2017 夢幻恋双紙 赤目の転生

(この記事は下に行くにしたがってネタバレ成分が多くなります)

ピアノの旋律が美しい。
松井るみさんの舞台美術が美しい。
役者のみずみずしさが美しい。
美しい舞台でした。


「ピアノと歌舞伎ってどうなんだろう、台詞の邪魔しないかな」と思っていましたが、全く問題なし。
ピアノの音色が演出、役者の呼吸と一体となり、絹のように滑らかに物語を運んでいきます。
むしろ現代人にとってはお囃子よりピアノの方が耳馴染みがあるわけで、「これから歌舞伎見るぞ!」という一種の身構えはピアノの音色でほとんどなくなっているように思えました。
若い方、古典アレルギーを持ってる方も抵抗なく世界に入り込めるのではないでしょうか。

各登場人物のキャラクターもわかりやすい。
主人公の太郎とその友達は、始まって5分で「あっ、このキャラクターたち知っている…」と日本人のDNAに訴えるものでした。
よわっちぃ主人公、身体のでかいガキ大将、小柄な調子のいい子分肌、ちょっとお転婆な女の子……

そう。

ドラえもん!!!


役の名前もそうですし、動き・台詞からも作・演出の蓬莱さんが意図してそこに寄せていったことがわかります。

むしろ日本人の99%が即座にわかる友達キャラの黄金比率を確立した藤子・F・不二雄すごい(*・ω・)

だって「この子はこういうキャラです」と詳しい説明をしなくても、ドラえもんの匂いがした瞬間にキャラクター紹介はほとんど終わってるんですもん。

それを再現する猿弥さんのジャイアン(映画版)、いてうさんのスネ夫、鶴松丈のしずかちゃんがぴったりです。
猿弥さんがこぶしを振り上げる姿はアニメから飛び出してきたようだし、スネ夫の描いた絵を投げ捨てる描写があるのですがそれがめっちゃかわいくて好き。
いてうさんの変わり身の早さは登場人物の中で一番人間味があるかもしれない。
詳しく言えないけど、今回の舞台のいてうさんは全体通して名演技だな…
鶴松丈は所々初代しずかちゃんの野村道子さんと重なりました(^∀^)
おかっぱ頭がとてつもなく似合っています(決して麗子像ではない
あの身長だからさらに似合う。
鶴松丈かわいいなぁ(´∀`*)とずーっとニヤニヤしてました。


(ここからネタバレ大!)






見に行く前は『夢幻恋双紙 赤目の転生』っていうタイトルから、

「写輪眼?ルルーシュ?夢幻で恋双紙ってことは時をかける少女的な?」
(o^∇^o)ノ


と、ハッピーエンドな転生劇を思い浮かべておりました。




とんでもねぇ。


ほんととんでもねぇ。


とんでもねぇよ蓬莱さん!



こんなに救われない作品は初めてだ!




救われないといえば、少し前に見たコクーン歌舞伎四谷怪談』も救われない後味の悪さが印象的な作品でした。
でも、今回はその救われなさとは全く違う救われなさです。
四谷怪談は人間の業とか因果とかそういう生臭いものが絡まり合って救われないお話でしたが、今作はそこに明確な因果があるわけでもなく、理由もわからずただただ太郎が救われない。

勘九郎さん演じる太郎は理由もわからないまま転生を重ね、生まれ変わるたびに七之助さん演じる歌を幸せにしようとします。
そして歌の兄に殺される度に巻き戻って、少しずつ違う人生をまた辿るのです。
その繰り返し。
全ての台詞に伏線があり、終盤にそれが一気に回収され、衝撃の事実が明かされた時、蓬莱さん天才かよって思いました。



でも怖かった。
よく某動画サイトのコメント欄で見かける「無限ループって怖くね?」を地で行く作品すぎて…orz

だって太郎の転生は少しずつ姿かたちを変えてまだまだ続いていくんですよ!
なにかの呪いにかかっているというわけではないので、おそらくそこから抜け出す方法はないのかと。
ピアノの旋律にのってどこまでも続くんです。
お客さんが家に帰った後も、赤坂大歌舞伎楽日後も、ずっと太郎は繰り返すんです。
だからお客さんはまた赤坂ACTシアターに行かなければいけません。

終演してないんだもの!!


カーテンコールもずーっと寂しいピアノの旋律が流れてて……
せめて最後ぐらい明るい音楽で終わってほしかった……
おかげであの暗い旋律がまだ体の中をぐるぐるしています。
そして筋書きの役者座談会の勘九郎さんも仰っていたことに全面同意。
筋書きを買った皆さん、きっと勘九郎さんと同じことを思ったのではないでしょうか。













あー!

本当に蓬莱竜太はなんて奴だ!


(バイキング小峠風)





~どうでもいいメモ1~
三番目太郎の時、皆が「おめでとう」と言う場面。
エヴァかと思ったのは私だけだろうか。
「おめでとう」「おめでとう」「すべての子供達におめでとう」とかで終わるんじゃないかと一瞬思った。

~どうでもいいメモ2~
やっぱり亀蔵さん好き。
確実に人を笑わすって難しいんだけど、「ここでお客を笑わしてください」という演出家の要望に高確率で答えられる方だと思う。
芝居が堅実だからかな。

~どうでもいいメモ3~
ACTシアターの互い違いの座席最高。
何十年後かの新歌舞伎座にも是非ご検討ください。