ひのきのぼうの沼日記

そう、人生は沼だらけ

八月納涼歌舞伎 恐怖時代

歌舞伎座で幕を開けました八月納涼歌舞伎。
運よく初日の1部2部のチケットが取れたので行ってまいりました。

まずは谷崎潤一郎作の『恐怖時代』から。


ざっくりあらすじを説明しますと…


大名・采女正の妾であるお銀の方は、部下の梅野と、家老の靱負とお家の乗っ取りをたくらむ。
「懐妊中の正妻や采女正を毒殺して、息子の照千代に家督を継がせよう!」
実は照千代はお銀と靱負の子供だったのです。
手始めに、毒薬を医師の玄沢から入手。
そしてお銀の方は早速、口封じのため玄沢を毒殺(被害者1)
梅野は毒を盛るのに、部下のお由良の父親である茶坊主の珍斎を使おうと呼び出す。
そして、計画を知っちゃったお由良を梅野が殺害(被害者2)
珍斎は臆病者で、お由良のように殺されるのが嫌なので、毒殺計画に加担することを決める。

しばらく後。
結婚の約束をしている小姓の伊織之介といちゃいちゃする梅野。
「家臣がお銀の方について采女正に色々うるさく言うから、そいつら斬っちゃって」
ちなみに伊織之介も可愛い顔して、毒殺計画一味。
そこにお銀の方がやってきて、梅野を使いにやり、伊織之介と二人っきりに。
いい雰囲気の二人。
実は、本当の恋仲はお銀の方と伊織之介だったのです!
二人で靱負と梅野をだましていたのです。

なんだかんだで、お屋敷では采女正に家臣二人が「お銀の方のお命差し出せー」と言っています。
そこに計画通り伊織之介がやってきます。
「お銀の方にはお世話になってるから、自分と真剣勝負しろ!」
で、真剣勝負をしたら伊織之介はめちゃくちゃ強くて、大方の予想を覆し二人を斬り殺します(被害者3,4)
采女正は残忍な人間なので、これじゃあ飽き足りません。
「そうだ!伊織之介と梅野が真剣勝負しちゃえよ!」
伊織之介は梅野を殺します(被害者5)
そこへ正妻が毒殺され、その犯人が珍斎かもという知らせが(被害者6)
采女正や部下たちは正妻の元へ、靱負は珍斎を取り調べるといって他の部屋へ。
二人っきりになり、見つめあうお銀の方と伊織之介。
そしたらその様子を戻ってきた靱負に見られ、伊織之介は靱負を殺害(被害者7)
珍斎が計画をすべて白状して、怒った采女正は息子の照千代を殺害(被害者8)
「なんてことをー!」と激情した伊織之介は采女正を切り殺す(被害者9)
家臣たちもバッタバッタと切り殺す(被害者多数)
最後には二人で死のうと、お銀の方と伊織之介は刺し違えて死ぬ(被害者もう何人かわからん)
そんな中、呆然と血塗られた光景を眺める珍斎でしたとさ。




こんな話。

なんかこういうお話あったよなー…で思い出したのが『アウトレイジ

キャッチコピーは「全員悪人」でしたっけ?

お由良も結局「計画に加担して、それを逆に密告すれば褒美にありつける」って感じでしたし、諫言した家臣も良い人ではなかったし、完全に黒い人とは言いませんがグレーですね。



中盤から最後まで人がバッタバッタと死んでいきます。
とくに最後は血糊大奮発の、歌舞伎の魅せる仕掛けが楽しめます。


すごいです。
こんなに残忍な舞台は初めて見た気がします。



実は観劇前、あらすじを読んだときに「色々と事件が起きてるこの時代に、これは大丈夫なのか」と心配してました。
でも見終わって、これは率直に若い人に見てほしい!
スプラッターなシーンを気持ち悪く思うのか、漫画みたいと思うのか、感じ方はそれぞれあると思います。
でも、それを感じることが重要で、避けて通っちゃ、臭いものに蓋しちゃダメなんです!

思惑が深い深いどツボにはまり、結局誰も幸せになれなかった。
可愛そうなようで、でもどうしようもないお話です。

皆さんはこの結末、どう感じるでしょうか?





お銀の方の扇雀さん・梅野の萬次郎さんが悪いですね~。
喜劇の時の扇雀さんも好きですが、虎視眈々と家督を狙う真っ黒い扇雀さんも格別です。
芸の幅を見せていただけます。
梅野も悪いんですが、伊織之介とイチャイチャする時の梅野の可愛らしさがあるので、ちょっと最後は可愛そうなんですよね。
扇雀さん、萬次郎さん、加えて靱負の彌十郎さんが並ぶと、もう悪さ100倍です!
絵の強さが半端ない。

采女正は橋之助さん。
狂った采女正を見事に演じられています。
死体を見てテンションあがるところとか狂気です。
2部の信州川中島合戦の輝虎といい、八月の橋之助さんは大変そうですね。

伊織之介は七之助さん。
はい。
絵になります。
「女子のような顔と声で」とバカにされる伊織之介ですが、そりゃぁはまり役ですわ。
七之助さんの伊織之介は凛として、でも存在感が分厚いわけではありません。
一人だけ漫画みたいな、現実離れした存在感。
なので、伊織之介の腹の内が見えないんです。
何を考えているのかとか、そういう内面の部分が見えないので、刀を振るうと余計に恐ろしく見えます。

そんな中で救われる(?)のが茶坊主の珍斎です。
演じるのは勘九郎さん。
勘九郎さんが一人いろんな表情を見せてくれるので、楽しいです。
本当に一人だけ忙しい。
珍斎のコミカルさに救われます。
彼がいることで、舞台の空気がかなり軽くなります。
と同時に、珍斎がいることで、他のキャラクターたちのどうしようもなさが浮かび上がります。
彼自身、黒くはないですが、白くもない…
9割ぐらいの人が「結局最後にはこういう人が残るよね!」って納得できるキャラだと思います。







どーでもいいメモ↓

血糊の仕掛けが気になる。
すごいぞ、歌舞伎!